国王と臣下の間柄(3)

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 ファレはうるんだ瞳で俺の首に抱きつくように腕を回してきて――俺は咄嗟に彼女の右手首を掴んだ。 「……何の真似だ」  低く問う。細い指先には小さな針。 「だって……陛下がちっとも積極的になってくださらないから、ちょっとした媚薬を」  俺の目を覗き込んでクスクスと笑うファレは無邪気だった。まるでイタズラがバレてしまった時の子供のような。俺は一気に不信感を募らせる。 「冗談ならば笑えんな。薬に頼らんでも、もう少し上手いやり方があるだろう」 「そうですね、思ったより敏くていらっしゃったのでびっくりしました。下の噂なんてアテにならないわ。……腕が痛いので、そろそろ離していただけませんか?」 「あ……あぁ、すまん」  言われて気づき、掴んでいた手首を慌てて離した。強く握りすぎたのか、白い肌が赤くなってしまっている。刹那―― 「きゃあああああああっ!!」  突然ファレが耳を劈く長い悲鳴を発して、俺は心臓が飛び出るほど驚いた。そのまま彼女は地面に倒れ込む。一体何が起こった?  人払いしているとはいえ、悲鳴などが聞こえれば別だ。城内で仕事をしていた使用人たちが、何だ何だと廊下や窓から顔を出す。そんな中で真っ先に駆け寄ってきたのは、この先の東屋で茶の用意をすると言っていたヴェラだった。 「ファレ! どうしたのです!」  ヴェラが倒れた娘の身体を抱きかかえると、ファレは今にも泣き出しそうな顔で訴えた。 「へ……陛下が、強引にわたしの身体を!」 「いっ!?」  血の気が引く感覚は久し振りだった。十二歳にもなって母に寝小便がバレた時以来。だが今回はあの時のような罪悪感はない、だって事実無根だもの!  ファレが震えながら掲げた手首には、くっきりと俺の手の跡が残っている。それを見たヴェラは顔色を変えた。 「トーン様! いくらファレが魅力的だったからといって、いきなり襲い掛かるような真似をなさるなんて! はしたないと思わないのですか!?」 「誤解だヴェラ、落ち着け!」 「いいえ、この痛々しい跡が何よりの証拠ですわ! いくらトーン様といえど、やっていいことと悪いことがございます、相応の責任はとっていただきますわ。――誰か!」  ヴェラが叫ぶと、どこからともなく騎士団の連中がやってきて俺たちの周囲を取り囲んだ。筆頭には団長であるシャープの姿。
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