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非常にまずい。ただでさえ俺が訓練所の使用許可を出さないものだから(これについてはシャープが悪いのだと再三主張しておくが)、狭い裏庭で訓練するハメになっている騎士たちのフラストレーションは許容ゲージを振り切っているに違いない。しかも騎士道精神とやらに悖るこの状況、主君である俺の味方をしてくれるかどうかも怪しい。
騎士団の頼もしい円陣を満足げに見やって、ヴェラが朗々と宣言する。
「国王陛下は、か弱き女性を力づくで我が物にしようとなされました。正しき道を知る者たちよ、この場の悪を取り押さえなさい!」
「くっ……」
ここで『この女の狂言だ』と主張しても、女性に罪を擦りつける卑怯者というレッテルを貼られるだけだろう。俺は何も反論出来ずに唇を噛む。
「了解、マム」
シャープが前に歩み出て、俺にとって絶望的な一言を口にした。ふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべるヴェラと、シャープの合図でザッと包囲網を縮める騎士団。――その中心で。
「ちょいと調子に乗りすぎたな」
ぶん、という低い風切り音と共に煌めく銀色の刃。
「んなっ……!?」
同時に起きた短い悲鳴は驚愕を露わにする。ハルバードの斧先が、ヴェラの喉元を狙い澄ましていた。
「な……なに、を……」
「おっと動くなよ。いくらオレでも、娘の目の前で母親を殺したくはねェからな」
武器を片手で構えたまま、しゅぼ、とタバコに火をつけるシャープ。ヴェラの額から流れ落ちる冷や汗と対照的に、紫煙はゆったりと空へ昇っていく。
「強姦未遂だぁ? コイツにそんな度胸がありゃ、はなっから見合いなんて面倒なコトする必要ねェんだよ」
シャープは母娘を見下ろしながら、心底呆れたようにボヤく。……何だろう、この、信じてもらえてるのにこき下ろされてる感。
目を見開いて硬直していたファレが、我に返って母を庇うように声をあげた。
「で、でも、わたし本当に……! 見てください、この腕の跡! 服だって乱されて――」
「無駄ですよ」
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