国王と臣下の間柄(3)

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 背後から静かな声がして、俺は振り返る。いつの間にか、優しい笑みをたたえたフラットが立っていた。騎士たちの円陣が割れ、俺の傍に歩み寄る。 「ぜ~んぶ、知ってますからね」 「おわっ!?」  フラットはおもむろに俺の襟元に手を入れると、何かを取り出した。指先に乗る程度の、小さな小さな生き物。 「私のペットのコウモリちゃんです。この子が一部始終を見聞きし中継して、私に伝えてくれました」 「お、おまっ、いつの間に……」 「ふふ、すみません。陛下が何も知らずに誤って潰してしまわないかだけが唯一の心配でした」  フラットはコウモリを慈しむように撫でる。入れたのは庭に出る前か。大人しくしていたとはいえ、こんなところに生き物がいて気づかんものなのだなぁと、思わず自身の首筋の感覚を確かめた。 「シャープ、ファレさんの指先かベンチの側、もしくは衣服の中に針があるはずですので、回収を。それと東屋のお茶はそのまま成分分析に回してください。――お砂糖もミルクも入れる前なのに、何故かかき混ぜる音がしましたから」 「あいよ」  フラットの指示に、シャープが短く応えて騎士たちを動かす。取り押さえられたヴェラとファレは、鬼のような形相でこちらを睨みつけていた。 「な、なんたること……あたくしの計画が……! トーン様、今までの恩を仇で返すおつもりですか!?」  口角泡を飛ばしながら叫ぶヴェラ。その姿が哀れに見えて、俺は首を横に振る。 「言葉を返すようだが、失望しているのは俺の方だ。見え透いた小細工などしなければ、この縁が成立していた可能性もあっただろうに」  ううっ、と悔しそうに唇を噛んでヴェラは俯き、怒りを引き継ぐかのようにファレが喚き立てる。 「男女二人きりの時間を覗き見するなんて信じられない! プライバシーの侵害だわ!」  フラットが、その言葉を聞いて表情から笑みを消した。 「大事な国王陛下を、素性の知れない女と完全に二人きりにすると思いますか? 馬鹿も休み休み言いなさいな」  軽蔑するような眼差しで冷たく言い放つ。ファレは一瞬怯んだものの、やはり若さ故か、さらに突っかかってきた。
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