国王と臣下の間柄(1)

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 俺は今、猛烈に悩んでいる。  仮にも一国一城の主なのである。……あぁ、成人男子がマイホームを構えた時に言いがちな感じのニュアンスではなく、そのまんまの意味で、職業で言うと『王様』というヤツである。つまり、この国で一番偉いのである。  なのに。なのにだ。 「いい加減に訓練所の使用許可出せよてめェ、こちとら狭っ苦しい裏庭に押し込まれて身体が鈍ってンだよ。イザって時どうなっても知らねェぞ?」  などというヤクザまがいの脅迫と、 「はぁ……どうして陛下はいつも朝議に集中なさらないんですか。昨夜も夜更かししたんでしょう、知ってますよ私。参加者に頭を下げるこちらの身にもなってくださいよまったく」  などという姑舅のようなネチネチ小言に、両方向から責められているこの状況は一体何なのだ。  い、一応、王の矜持を保つために反論でもしてみるか。 「いいかシャープよ。訓練所は暮れの交流餅つき大会で、臼ごと床を破壊した誰かさんのせいで修理に二ヶ月かかったのだ。それを反省するまでは、騎士団に使用許可を出すわけにはいかん」 「杵は壊れなかったんだからいいじゃねェか」 「そういう問題かっ!! ってか全然反省してないなお前! びっくりしたぞ!」  あの時四方八方に飛び散った餅が、城下から参加していた長老の口に飛び込んだせいで、あわや暴動に繋がりかねない事態だった暮れの大騒動。何故か無傷だった杵は後に『奇跡の杵』と名付けられ、戦の神として騎士たちに祀り上げられているとか何とか。――まぁそんな話はどうでもいいか。  その騒動の犯人がこの男、ムジーク王国騎士団長および王直属近衛騎士隊長のシャープ=リード=ムジークである。自慢の腕力で愛用の重量級ハルバードをブン回し、敵をバッタバッタとなぎ倒す姿は勇壮であるが、いかんせん脳味噌の筋肉化が末期だ。  痛む頭を押さえつつ、俺はもう一方の人間に向き直る。
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