国王と臣下の間柄(1)

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「フラットよ。俺だって会議が退屈で寝ているわけではない。連日連夜地味な仕事に追われ、寝る間も惜しんで作業しているのだ。平和極まりない今日、朝議の議事録を二、三すっ飛ばしたところで国の運営に特に影響はないだろう」 「影響があるかないかで言ったら、確かにないですけど」 「……断言されるのも何か悲しい」 「私は、ピシッとした空気の中で家臣が一日の気合いを入れるべき朝議の場で、主たる貴方がダラリとなさる姿を見るのが情けないのですよ。分かりますか?『あぁまたか』みたいなあの諦めムード! 皆の溜息が聞こえていないのは陛下だけなんですからね!」 「うぅ……そんなに怒ったら綺麗な顔が台無しだぞ」  おべっか使っても無駄です、と大袈裟な溜息をついたのは、王立修道院の院長兼、俺の側近を務めるフラット=ネウマ=ムジークだ。華奢な容姿で、普段は物腰柔らかく俺にも優しいのだが、若干オカン気質でたまにこういう説教が飛んでくる。 「今日だってなんですか、ヨダレが机上でムジーク王国周辺地図を象ってましたよ! ご丁寧に近海の小島まで再現なされて! 書記官がスケッチしてましたが、まぎれもなくただの複製地図が出来上がりました!」  ばん! と政務机に叩きつけられたイラスト。覗き込んだシャープが盛大に噴き出す。フラットはそれを睨みつけて、さらに続けた。 「シャープ、笑っている場合じゃありませんよ。貴方が先程まで掛け合っていた訓練所の件、使っていないなら城下のちびっ子武道クラブに無料開放しようなんて話がその朝議で出ているんです。この人が寝ぼけて首を縦に振ろうものなら、あっという間に訓練所は子供たちのものですよ」 「ぁンだと!? オイ、聞いてねェぞそんなコト!」  同じく、ばり! と机を両腕で叩き、シャープが俺に迫る。さっきと音が違うのは、天板に張られたガラスが蜘蛛の巣状に割れたからだ。 「お、お前はやらかした例の一件で朝議の謹慎くらってるからだろうが! だから殴らないでくださいお願いします」  うっかり語尾が懇願口調になってしまったが、防衛本能が成せる業だ、仕方ないだろう。
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