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国王と臣下の間柄(2)
「気が進まんなぁ」
俺はダラけきった態度で返事をした。
「真面目にお聞きくださいませ、トーン様」
当然ながら、相手からは不満そうな声が上がる。
さすがにオヤツ抜きは精神衛生上良くないので昨晩は早めに床に就き、今日の朝議は何とかキリッとした顔を保てたのだが、反動で解散後は夏のシロクマのようにどこもかしこも弛緩しきっていた。そんな時に話しかけられたのだから仕方がない。
「今日は御身体の調子が良いとお見受けしましたので、この機会に是非お話をと思いましたのに」
婉曲な嫌味を混ぜ込みながら、目の前の女性はしなを作ってみせる。彼女も朝議での俺の居眠りにヤキモキしていた一人なのだろう。
「そう言われてもなぁヴェラ。俺まだ三十四だし、親父から国を継いで間もないから正直それどころではないのだが」
ヴェラは、俺の父である先王の従兄の嫁の妹、つまり遠い親戚である。が、まだ幼かった俺たち兄弟の世話役として入城して以来、現在も召使いたちの筆頭的な地位で動いてくれている。
「何を仰います。『まだ』ではなく『もう』でございますわよ。ムジーク国王は妃も娶れない軟弱者、と他国に謗られてもよろしいのですか?」
「言わせておけばいい。大体、年齢のことを言うなら俺ももうお前に面倒見てもらう歳ではないし、そんな縁結びの世話焼きおばちゃんみたいな真似せんでも」
「ぅおばちゃんん!?」
あ、ヤバイ。なんか逆鱗に触れた。ヴェラの顔色がみるみるうちに赤く染まっていく。
「あたくしはこの国とトーン様のためを思って申し上げているのに、おばちゃん呼ばわりとは聞き捨てなりませんわ!」
急に声を荒らげたヴェラに、会議室を出ようとしていた数名が立ち止まり驚いた表情でこちらを見ている。
年齢的にも立場的にも『おばちゃん』で相違ないはずだが、レディに向かってあけすけすぎたかもしれない。反省した俺は謝罪を試みる。
「いや、すまん、あのな、」
「いいでしょう。では『世話焼きおばちゃん』の名にかけて、あたくしが腕によりをかけてお見合いをセッティングしてみせますから、実現した暁には必ずお会いになってくださいませ!」
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