国王と臣下の間柄(3)

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国王と臣下の間柄(3)

 城の中庭はそれなりの広さがあるが、人払いされているのか俺たち以外の人影は見当たらなかった。色とりどりの花が咲き乱れる花壇の間を、特に会話もなくゆっくりと歩く。俺の後ろを数歩遅れてファレが付いてきていた。  中央の噴水まで歩いたところで、近くのベンチに座るよう促す。遠慮がちに腰かけたファレは、捨てられた子猫のように震えていた。無理もない、『だらけきった放蕩王』で有名な俺でも、国王という肩書きはそれだけで一般庶民を畏怖させる威力がある。  こちらから言葉をかけてやるべきだが、しかし適当な言葉が見つからない。隣に座ったものの、気まずい無言の時間が流れる。  が、意外にも沈黙を破ったのはファレの方だった。 「あ、あの……母が申し訳ありません。昔から、思い込んだら一直線なところがありまして。国王陛下には大変ご無礼をいたしました」  深々と頭を下げ、謝罪する。彼女が悪いわけではないのだが、律儀だな。 「構わん。ヴェラの性格は俺もよく知っているからな。俺が言うことを聞かないとすぐ癇癪を起こすから、対ヴェラ専用の処世術を身に付けた」 「処世術?」  俺の言に、ファレが目を丸くする。 「言うことは聞くだけ聞いて、最終的に無視する」 「まぁ……ふふっ、正しいご判断かもしれません」  少し会話をして緊張がほぐれたのか、ファレはやっと笑顔を見せてくれた。 「だから、お前もこの見合いが不本意なのであれば無理する必要はない。適当に茶を濁して解散しよう」 「ふ、不本意だなんてそんな! 身に余る光栄にございます」  俺の提案は、激しく首を振って否定される。彼女は無理やり駆り出されたわけではないのか。 「本気か? 歳の差結構あるぞ」 「確かにわたしは若輩者です。でも、国王陛下のお役に立ちたい気持ちは人一倍あります! 陛下はこんな年下はお嫌いですか?」  先程までの委縮しきった子猫と同一人物とは思えないほど、上目遣いで迫ってくるファレ。わざとなのか、腕で寄せた胸元が殊更強調されて目のやり場に困る。……参ったな、ガチ見合いなのかコレ。 「嫌いではない、むしろ好きだ。――っとと、そうではなくて」  うっかり本音が出てしまったが、ここから先は慎重にいくべきだろう。 「……お前のその気持ちが国民としての忠義心からくるのなら、やめておいた方がいい」
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