5人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 公園にて
Chapter 1
Inside the park of her memories.
夕刻。
太陽が徐々に光を失い、夕闇に取って替わる刻。
俗に逢魔が時と揶揄される時間帯だ。
季節は衣替えの頃。午後五時を回ってもすぐには暗くはならない。
だが年期の入った公園の照明灯達は、決まった時間だと言わんばかりに一斉に点灯を始める。まだ充分に公園を見渡せるにもかかわらずだ。
「これって電気の無駄遣いじゃないかなぁ」
人気のない公園では、高校生らしき女の子、矢作亜由美(やはぎ あゆみ)が、一人寂しくブランコを漕いでいた。
ブランコが往復する度、茶色がかった長い髪が棚引く。
この公園は、亜由美の通学路の途中にある。
亜由美の家から約一〇分程度。
住宅地の中にあり、ちょっとした散歩のついでに立ち寄れる。
見通しも良く遊具も多いことから、子供の貴重な遊び場や、周辺住人の憩いの場として重宝されていた。
そのため、普段は小学生やその保護者がいる。高校生の亜由美としては何となく入り難かった。
それが今日に限って誰もいない。
だから何となく公園に足を踏み入れ、何となくブランコに乗ってみた。
久し振りだった。
ブランコ担当の古びた照明灯は、消えかけたり、ゆっくりと明滅したりで落ち着きがない。蛍光管の寿命が近いのかも知れない。
それを見ながら、亜由美はただただブランコに揺られていた。
──もう一〇年も経つんだなぁ。
幼い頃、休日の度に父に頼んで連れて来てもらったこの公園。
仕事で忙しかった父との数少ない接点の一つだった。
そんな父は、一〇年前にこの公園で亡くなった。
以来この公園に足が向かない。小学生がいるからなんてのは言い訳だ。
どうしても思い出してしまう、父の大きな手。
思い出してしまう。
あの時起きた出来事を。
──私が我がままを言わなかったら。
それを思い出して涙ぐむ事はなくなったが、それでもまだ、ちくりと心が痛む。
「ねぇ」
やにわに少年の声がした。
声変わりしていない幼い声色。成熟していない小柄な体躯。若干色素の抜けた明るい髪の毛。見た感じ、中学生くらいだろうか。
そんな少年が亜由美の隣に立っていた。
「隣、空いてる?」
少年は二つあるブランコのもう一方を指差した。もちろんそこには誰もいない。
「え? ええ」
最初のコメントを投稿しよう!