第一話 公園にて

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「普通男が先に名乗るもんじゃない? 初対面でしょう?」 「そうなの?」 「そうなの! だから先にあんたの名前を言いなさい!」  亜由美は胸を反らし強気に出た。威嚇したという表現が近いのかも知れない。  さぁ、とっとと自己紹介なさい。話はそれからよ。  そう言わんばかりの態度だった。  ところが。  少年は表情一つ変えず、口も開かない。  無情にも時間は過ぎ去り、やがて一分が経過した。  少年は相変わらず好奇心に充ち満ちた目で、亜由美を見つめ返していた。  年の差こそあれ男女が見つめ合うこの状況。どこかの誰かが大きな勘違いをしそうだ。  ──何よこれ。何なのよこの雰囲気は……。  亜由美はこのどうしようもない雰囲気をどうにかしようと考えた。考えたが何も思いつかなかった。  結局。  亜由美が先に折れた。 「ええとね」 「うん」 「初対面だから、まず最初は自己紹介だと思うのよ」  やんわりと言ったつもりだったが、実際の口調はかなり刺々しかった。  だが少年はそんな亜由美の態度など意に介さず、これまたやんわりと応じた。 「そうだね」 「で、私があんたに名前を聞いたわけ。ここまではいい?」 「うん、合ってる」 「ああ、良かった。言葉が通じてないかと思ったわ」  亜由美は大げさに胸を撫で下ろした。 「で、あんたはそのまま黙って突っ立ってるだけ」 「まぁ、座ってはいないね」  少年は器用に鉄パイプの上でバランスを取っていた。 「ああもう!」  亜由美はそもそも我慢強い女の子ではない。どちらかと言えば短気だ。 「私は矢作亜由美。高二。こう見えても書道初段」  その上一言余計だった。 「うん、分かった。亜由美って呼べばいいんだね?」 「年上を呼び捨てにしない!」 「年上?」 「あんた中学生でしょ?」 「ええと、そうかな?」  少年は首を傾げた。 「それなら少なくとも二つは私の方が年上。ちゃんと礼節を持って対応なさい」  少年はどうにも理解出来ないと言った表情を作った。 「何よ、文句あるの?」 「いえいえ。滅相もない」  少年は鉄パイプに立ったまま、器用に頭を振った。 「で、お名前は?」 「僕の、だよね?」 「他にどなたがいらっしゃるのかしら?」  亜由美の我慢の限界は近そうだった。  少年は観念したように肩をすくめた。
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