第一話 公園にて

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「……辛くなんかない」 「じゃあ、『苦しい』?」 「苦しくなんかない! 何よあんた! 私の何が分かるってのよ!」  亜由美は顔を上げ、祐一を睨み付けた。 「あんたに何が分かるの? お父さんは休みの日はいつもここに連れてきてくれた。遊んでくれた。楽しかったの。嬉しかったの。だからお父さんがいなくても苦しくも辛くもない。そう決めたの」  一〇年間。  亜由美はこの感情が表に出ないように、時間をかけて心の奥底にしまい込んできた。  泣いてしまわないように。  悲しまないように。  自分が悲しむ事で『お父さん』が心配しないように。 「そっか」  祐一は穏やかな笑顔を浮かべた。 「亜由美はお父さんが大好きだったんだね」  それは優しく諭すような声。  亜由美はもう抗えなかった。 「……そう。私はお父さんが大好きだった。だからお父さんがいなくなっても辛くなんかない。苦しくなんかない。悲しくなんかない……」  ──私が悲しめばきっとお父さんが悲しむ。  それは亜由美が自分で『決めた』事だ。  遺された者として、時間をかけて決めた事だ。  「それで、心の奥にそれを押し込んだんだね」 「……うん」 「亜由美は優しいんだね」  優しい?  ──私は優しい? 誰に対して? 「会わせてあげようか?」  祐一のその言葉は、亜由美の理解が追いつかない。 「え? 会わせる? 誰に?」 「亜由美のお父さんに」  祐一の飄々とした口調に変化はない。  亜由美はその言葉の意味を図りかねた。  『会わせてあげようか』と祐一が言う。  ──誰に?  『お父さんに』と祐一は言う。  そんなバカな話はない。  死んだ人間に会えるはずはない。  それでも聞かずにいられなかった。 「お……お父さんに?」  亜由美は、怖ず怖ずと祐一に尋ね返した。  対する少年は、何食わぬ顔で応じた。 「そう。亜由美のお父さんに会わせてあげるよ」  祐一の表情は相変わらず飄々とし、感情が読めない。どこまでが本当なのか。亜由美には判断出来なかった。  だが。 「僕にはそれが出来る」  祐一と名乗った少年はその存在感を増し、圧倒的な言葉を亜由美に投げかけた。 「……本当に?」 「僕は嘘はつかないよ。ただ、その替わりに」 「替わりに?」 「その思い出を貰う」 「え?」 「亜由美をお父さんに会わせてあげる。でも代価が必要なんだ」 「代価?」
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