第一話 公園にて

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「お父さん!」  亜由美は立ち上がり、衝動的に駆け寄ろうとした。  「ちょっと待った!」  鋭い祐一の声が、亜由美の全ての行動を封じた。亜由美は足が砂地に縫い付けられたように貼り付き、そこから一切の身動きが出来ない。  ──何よこれっ! 「何よ! 何をしたの?」 「まだだよ。まだ亜由美は『契約』を果たしていない」 「け、契約?」 「そう。僕はまだ代価をもらっていない。先払いなんだよ、これは」 「いいわよ、どうやって払えばいいのか分からないけど、早くして!」  亜由美は、光の柱を食い入るように見つめていた。 「いいんだね?」  祐一の凜とした声が、静かに周囲に拡がった。  これはそう──契約だ。  思い出と引き替えにする事で手に入れるモノだ。  手に入れる。  ──何を?  亜由美の脳裏に疑念が浮かんだ。  ──私は何を手に入れるの?  祐一は『契約』だと言った。  ──お父さんを手に入れる? どうやって? 契約って何? 「もう一度聞くよ。『いいんだね』?」  亜由美は、祐一の声で冷静さを取り戻した。  ──私は一体何をしようとしているの?  目の前で起きている出来事はあまりに突飛だ。  既に死んだ人間をどうやって手に入れるというのか。  しかもそれには代価が必要だと言う。  そしてその代価は、亜由美のお父さんとの『思い出』だと言う。  それが『契約』だからだ。  ──お父さんを手に入れるために、私はお父さんとの思い出を失うの?  矛盾している。  亜由美の関心が、徐々に光の柱から離れる。  ──違う。  亜由美は目の前の光景を否定した。  ──お父さんはもういない。それに思い出がなくなったら、私はお父さんの存在すら否定してしまう。  亜由美はお父さんが大好きだった。  でもお父さんは一〇年前にこの世を去った。  それが現実だ。  お父さんの思い出と引き替えに手に入れる『モノ』は、きっとお父さんではない。違う『何か』だ。  今亜由美が立っている世界は『現実』なのだ。それはお父さんが『いない』世界だ。  だから答えは『分かっていた』。  違う!  そんな事、私は望んでいない!  亜由美がそう心の中で叫んだ瞬間。  亜由美を縛り付けていた、得体の知れない力が消え去った。同時に光の柱も消滅した。その中にいた『何か』も。  亜由美は体中の力が抜け、その場にへたり込んだ。
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