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「ねぇねぇ、お兄ちゃんの名前は?」
「俺は正人っスよ。きみは?」
「千里(ちさと)っていうの」
「千里ちゃんは、この辺りに家があるんスか?」
ちょっと警戒が解けてきた様子の女の子に、もう一度質問してみた。
すると女の子はきゅっと唇を軽く噛むと、指先をトンネルの方に向けて、質問とは違う事を話し出す。
「あのね、この先の森の奥に、千里がいっつも遊んでるお寺があるの」
「…寺?」
「うん」
寺と聞いて思わず眉をひそめる。
女の子は手を後ろで組むと、ニコッと笑った。
「お兄ちゃん、今度は1人でここに来てくれる?千里と一緒にお寺で遊ぼうよ」
「え?…あ~…そうっスね。でも、この辺りにお寺なんてあるんスか?」
「うん、あるよ。でもね、明るいうちに遊びに来て。じゃないと…この辺りの夜の森は怖いから」
と、誘われる。
寺ってまさか、廃寺になった千切寺のことだろうか。
この辺りの森に、他に寺があるなんて聞いた事はない。
そもそもこの子がただの人間なのかも分からない。
姿も声もはっきりしているのに、さっきから悪寒が全身に這い上がってくる…。
「千里ちゃん、キミはーー」
俺はそう感じ取り、目の前の子供の正体を確かめる為に、触れようと腕を伸ばした。
「ーーおい、正人?」
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