267人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
俺は前方を歩いているクラスメイトたちに気づかれないように、深いため息を吐いた。
土曜日の20時過ぎ。
智秋に誘われた幽霊トンネルへの肝試しに、俺は来ている。
さっき誰かのお姉さんが運転する車から、幽霊トンネルに続く道路で降ろしてもらい、そのお姉さんは1時間ほどしたらまた迎えに来ると言って走り去って行った。
そのまま数人で、わいわい騒ぎながら幽霊トンネルへとのんびり歩く。
俺と智秋の他に肝試しに来たクラスメイトは、男子1人と女子2人。
その3人と智秋は親しく話しながら、俺の前方を歩いている。
あんまり騒がしくしたら、この辺りの住民に怒られるだろーなぁ。
「ねぇねぇ正人君」
声をかけてきたのは、女子の1人だった。
いつの間にか俺のとなりに並んでいて、俺を見上げてニコッと笑う。
この女子は入学そうそう、上級生からもかわいいとか言われて人気のある子だったから、俺でも名前を知っている。
たしか、花野…えーと。
「暗いよね~、まだトンネルにたどり着いてないのに、私もう怖くなっちゃってるよ~」
と、女の子らしい高い声で、何故か甘えるような素振りを見せる。
クラスでもモテモテな女子、私は誰にでも優しくできるんだよ~って、アピールでもしてんのかな。
この子より、篠岡さんの方がかわいいけどなぁ。
「ふーん、ならみんなと歩いてればいいよ」
「え~正人君は怖くないの?あ、智秋君から聞いたけど、正人君ってあの幽霊トンネルについて詳しいんだってね~」
「そんなことないけど…」
「正人君が来てくれてよかったぁ。だって私、心霊スポット苦手だけど…正人君が来るって聞いたから来たんだもん」
…って、なんで恥じらいながら目をそらすんだよ。
頬を染めて隣でもじもじしながら歩かれると、他のクラスメイトにからかわれそうじゃん。
あーもうほら、みんなチラチラこっち見てるし。
げっ、智秋の野郎…にやにやしやがって、もしかしてあいつ、これが目的で俺のこと連れて来たな!
最初のコメントを投稿しよう!