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無表情のまま言葉の代わりに、瞬きを一つ。
そうだ、優しい人。
最後まで謝っていた。
人間性を、他人からこうして突きつけられると。
腹立たしいのにこんなにも、ばちっ、と嵌ってしまった。
それは私が「その通りだ」と頷いてしまったから。
なんだ。
向こうの方がよっぽど大人でわかっている。
伝票を持ち去る男。
取り残された私。
かっちりした黒革のブランド物のケースから。
一本煙草を取り、口に咥え火を着けた。
私だって私に。
疲れた・・・もう嫌だ・・・。
唇の代わりにフィルターを噛み潰して吸う。
息を止めてまた吸い込んで。
数秒遅れて肺が満たされる感覚が、どうにも破裂してしまいそうで。
吐き出すと同時に、
「・・・ごめん、ね」
天井に埋め込まれた大型の換気扇に「今更」なんて嘲笑うかのよう取り上げられて。
誰の耳にも届かず、煙草の煙りと一緒に
すうっ、と消えた。
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