ジレンマ

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 その噂はいともあっさり自分の耳に入ってきた。  廊下を歩いていたとき、突然、腕を引かれた。  驚いて顔を上げると、そこにはよく知っているチームメイトの菅野のニヤケ顔。 「重大なニュースを仕入れたんだ」 「内緒のことだから誰にもいうなよ?」 「実はさ・・・・」  そういいながら、菅野は自分の耳に口を寄せた。  ボソボソと耳元で呟かれた言葉。 「絶対内緒だぞ?」と、改めて念を押し、菅野は吹き出す寸前のよくわからない笑みを浮かべて、 他のチームメイトの岡部がいるA組の教室へと入っていった。  噂好きの菅野。  またの名を、スピーカー男。  たぶん、放課後には部の全員が知ることになるであろう噂。  なんだかよくわからない妙な気分で、ぼんやりとその場に立ち尽くして小さく息を吐いた。  ああ、そういえば・・・・。  昨日という日を思い出して、なんとなく納得した。  一年に一番、甘い香りが漂う日。  甘い噂が飛び回ったって、おかしくはないだろう。  甘いチョコレートを手に、赤い顔をして俯く姿。  そーゆーのにグラつく男の心理はわからなくもない。  気怠げに髪をかきあげて、もう一度深い息を吐いた。  まあ、自分には関係のないことだけど。  ちらりとD組の教室のドアに眼をやって、椎名はさっさと自らの教室へと足を進めた。
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