音と猫とルビーの指輪

6/19
前へ
/19ページ
次へ
 次に会ったのは、ノリヒロの友人であるコックの小野マサオだった。今日の食事担当だ。  このペンションにも何度も来たことがあるらしい。  よろしく、といったマサオの声は、よく通るバリトンだった。耳に心地よく、ハリウッド映画のスター俳優を連想させた。  彼は私の手を握って挨拶をくれた。  あまりない経験で、ドギマギしてしまった――。  今度は威勢のよい若い声の挨拶がやってきた。 「どうもはじめまして。小松タイチです。警察官をやってます。好きな作家は――」  タイチはその瞬間から、かなり社交的な印象だった。彼はすぐに私にも興味を示した。 「こんにちは」  私の顔のすぐ目の前で、彼は挨拶をした。私の顔の高さくらいまでしゃがみ込んで話しているのだ。  初めて会う人間に接近されると警戒する。マサオの時もそうだったけれど、私はどちらかというと人見知りをするタイプ――。 「かわいいなぁ」  タイチに頭を撫でられた。乱暴に頭を撫でられるのは嫌いだったが、タイチの掌は丁寧で優しかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加