音と猫とルビーの指輪

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「あ、こっちは石田カツミさんです。医師をされてるそうですよ」  ショウジが挨拶をしたが、返事の声は聞こえなかった。無口なタイプの人間だろうか。 「参加するのはミステリー好きだけかと思っていたがね」  突然の言葉に皆が一瞬黙った。カツミの第一声が、誰に向けられたものかわからなかったからだろう。  どうやら対象は私だ。私の姿を見てそう判断したのだろう。仕方ないことだと思う。  たしかに私はミステリー小説を読むことはない。 「すみません。放ってはおくわけにはいかないので」  ショウジが事情を話すと、カツミは罰の悪そうに言葉を濁しただけで、謝りはしなかった。 「医師ってどこかの大病院ですか?」  話題を変えようとしたのはタイチだ。  たっぷり五秒くらいの間があって、返答があった。 「大病院など、好かん。小さな診療所だよ。でなきゃ、医者など週末にうろうろはできん。それがわかって訊いたんだろう」  週末とは今日のことだ。つまり週末に出かける暇な医師だ、とタイチに思われたと錯覚したらしい。  普通はそこまで深読みしない。先の嫌みといい、彼はひねくれ者のようだ。
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