音と猫とルビーの指輪

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 三十分後、次の参加者たちがやってきた。 「川崎アツシといいます。か、会社員をしております。は、はじめまして。あの――」 「はじめまして――」 いち早くタイチが応答し、職業を告げた。 「えっ、警察官ですか。すごいですね。あっ、もしかして警察官になったのって、やっぱりミステリー好きだからですか。実際の事件ってトリックとかあるんですか――」  アツシがまるでマシンガンのように質問を投げ始めた。予想外のことでタイチの困惑が気配で感じ取れた。 「あ、いや、小説のようなトリックはさすがに――」 「そうなんですか。でも、難解な事件とかはあるんじゃないですか――」 「あっ、それよりも――その」 「えっ、ああ、彼は友達のユウタです。もう五年くらいの付き合いだっけ――あ、それでですね――」  といったのも束の間、ユウタすらも遮ったまま、アツシが落ち着きなく、どんどんと言葉を捲し立てる。 「本当はね。もっと友達をぜひぜひ連れて来たかったんですけど、ちょっと無理でしてね。今日はね。なにせ、うん、いろいろ――」 「あっ……ああ、そうですね――そうですよね。大勢連れての移動は大変でしょうし」  社交的なタイチですら、アツシの特殊性に度肝を抜かれているようだ。言葉の節々から、引いている感じがひしひしと伝わってくる。  タイチは逃げるように次の参加者への挨拶に移った。 「中森アツコです」  女性だった。相応に年をとっている感じだが、ハキハキとした声が印象的だった。  タイチが彼女の職を尋ねた。 「専業主婦なんです。なのでミステリーは空いた時間に――」  男性参加者とも言葉を交わした後、アツコは私にも興味を示した。  可愛い子ですね、といったが、生い立ちの事情をショウジから聞くと、やはり同情の声を上げていた。  仕方がない。いつものことだ。
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