あなたのもとへと②

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 ほなみがあと一歩後ずされば壁だった。もう逃げ場がない。  彼の瞳に、獣の様な輝きが宿っている。捕まえられたら、どうなってしまうのかーーそれを望んでいるのか、恐ろしいのか、自分にも分からない。 (ううん……違う……私は……西君に……抱き締めて欲しい……と望んでいる……だから……ここまで来た……) 「……ほなみも俺が心配なのか」  西本は、壁に両手を突き、ほなみを鋭い目で見下ろした。 「し、心配だよ……西君は……たったひとりのクレッシェンドのボーカルなのに……もし……私のせいで……活動出来なくなったら……」 「……そんな心配なんか要らないんだよ!」  苛立つ叫び声と共に、ほなみは強く抱き締められた。 「あ……んっ」  背中に彼の腕が絡みつき吐息が耳を掠め、思わず甘く声を漏らしてしまう。 「……これは夢なのか?」  彼の手が、頬に触れる。微かな震えがほなみの頬に伝わってきた。  愛おしげに髪を撫でられキスをされて、ほなみの心から切なさが溢れ出していく。 「俺は、夢を見てるのか?……ほなみが腕の中に居る……」  優しい低音の甘い声は、どこか苦しげだった。  ほなみが首に腕を回して抱き締め返すと、彼の身体がビクリと動く。 「夢じゃない……私は西君に……会いに来たの」  西本は腕の力を緩め、涙で瞳を盛り上がらせている彼女に向き合った。  ふたりの視線が絡み合う。西本の瞳もこぼれそうに潤んでいる。   (もう……自分を偽れない……) 「……会いたかったの……」  ほなみの両目からついに大粒の涙が落ちた時、彼に唇を塞がれた。
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