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ドアを開け視界に入って来たのは、割れた花瓶と、零れた薔薇――
いつか見たの夢の中で、西本がほなみの髪に挿した薔薇の様な美しいピンクの花弁が床一面に広がっていた。
青を基調とした色彩の寝室は、遮光のカーテンがぴっちりと閉められ、真夜中の様に暗い。
白いシャツ姿で、握り拳を固めてベッドに腰かけていた彼が、ゆっくりと振り返った。眩しいのだろうか。目を細めている彼は少し痩せたようだ。
だが、決して弱々しくは無い。むしろ、精悍さが増した様に見えた。ほなみの胸がズクンとときめく。
少し乱れた栗色の髪が光に反射して金色に輝き、その髪の間から覗く瞳の澄んだ色は、別れた時と変わっていない。彼のシャツは、全てのボタンが嵌められていなかった。胸から下腹部までの均整の取れた筋肉に、ほなみの目が釘付けになる。彼の姿に言葉を失って見とれてしまい、彼が驚いて目を見開き、その唇を僅かに動かしたのを見ても、ほなみは何も言葉をかけられずに立ち尽くしていす。
すると三広が鼻にティッシュを突っ込んだまま血相を変えて走ってきた。
「今なんか音がしたけど……っ?二人とも大丈夫っ?」
「……三広、お前がほなみを呼んだのか?」
部屋じゅうを振動させる、彼の通る声に、ほなみは聞き惚れてしまう。
(……ずっとずっと聴きたかった西君の声だ……)
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