あなたのもとへと②

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「うん。祐樹に元気を出してほしかったから」  三広の鼻からまた血が流れた。  ほなみが咄嗟に持っていたハンカチで押さえる。 「まだ静かにしてた方が、いいんじゃない?」 「ありがと……鼻血体質なんだよ俺……かっこ悪……」 「そんな事ないよ」  ふたりのやり取りを見ていた西本は背中を向け、震える声で言う。 「……イチャイチャするなら他でやれ」 「違うよ!ほなみちゃんは、お前の事を心配して来たんだよ?」 「余計な事をするな!お前に何がわかるんだ!」  西本が怒鳴って三広の胸倉をつかみ突き飛ばした。三広は、はずみで部屋の隅まで転げる。 「三広君っ!」  ほなみは、駆け寄り三広の身体を起こした。 「大丈夫だよ……」  ほなみに笑ってみせた三広が、西本に悲しい眼差しを向け、きっぱりと言った。 「お前が居ないクレッシェンドは有り得ない。お前が歌えるようになるなら俺は何だってする!」 「それで、ほなみをここまで連れてきたのか。ご苦労様だったな!……けれど……それは俺の為じゃなくて、お前の、自分の為なんだろう?」    パシン、と大きな音が寝室に響く。  ほなみが、西本の頬を打っていた。  ――掌が熱い、と感じ、ほなみは自分の手を頬に当てる。  頬も熱を持ち、身体中の血液が急速にドクドクと廻り始めているのを自覚して、戸惑っていた。 (彼の頬に一瞬触れただけなのに……)  ほなみは、西本と目が合うと心臓が飛び上がり、思わず顔を背けてしまった。
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