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「うん。祐樹に元気を出してほしかったから」
三広の鼻からまた血が流れた。
ほなみが咄嗟に持っていたハンカチで押さえる。
「まだ静かにしてた方が、いいんじゃない?」
「ありがと……鼻血体質なんだよ俺……かっこ悪……」
「そんな事ないよ」
ふたりのやり取りを見ていた西本は背中を向け、震える声で言う。
「……イチャイチャするなら他でやれ」
「違うよ!ほなみちゃんは、お前の事を心配して来たんだよ?」
「余計な事をするな!お前に何がわかるんだ!」
西本が怒鳴って三広の胸倉をつかみ突き飛ばした。三広は、はずみで部屋の隅まで転げる。
「三広君っ!」
ほなみは、駆け寄り三広の身体を起こした。
「大丈夫だよ……」
ほなみに笑ってみせた三広が、西本に悲しい眼差しを向け、きっぱりと言った。
「お前が居ないクレッシェンドは有り得ない。お前が歌えるようになるなら俺は何だってする!」
「それで、ほなみをここまで連れてきたのか。ご苦労様だったな!……けれど……それは俺の為じゃなくて、お前の、自分の為なんだろう?」
パシン、と大きな音が寝室に響く。
ほなみが、西本の頬を打っていた。
――掌が熱い、と感じ、ほなみは自分の手を頬に当てる。
頬も熱を持ち、身体中の血液が急速にドクドクと廻り始めているのを自覚して、戸惑っていた。
(彼の頬に一瞬触れただけなのに……)
ほなみは、西本と目が合うと心臓が飛び上がり、思わず顔を背けてしまった。
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