1042人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あの女といいお前といい……虐めたくなる表情をしてくれる……」
「はあっ!?」
綾波は、濡れた指の飛沫を三広に思い切り浴びせた。
「ほら。少し頭を冷やせ」
「つめたっ!」
「行くぞ」
「ちょっ…待ってよ」
三広が慌てて追いかける。綾波が急に歩みを止めたため、背中に鼻をぶつけてしまった。
「なんだよ!急に立ち止まんなよ!……ふぐっ」
綾波は、無言で三広の小さな口を掌で塞いだ。
「んん?……なにっ」
「静かに」
三広は、綾波の視線の先をみとめ、あっと叫びそうになる。寝室のドアが5センチほど開いているのだ。暗い室内の二人の気配を感じ取る。思わずごくりと喉を鳴らし、綾波の手を突っついた。
「綾ちゃ……覗きはだめ!」
「いいから、見とけ」
綾波は、三広の口を塞いだまま妖しく笑った。
「なっ……悪趣味だってば……むぐぐ」
三広は、いけないと思いつつも、目を懲らして部屋の奥を見つめてしまう。
すると、小さな悩ましい息遣いが聴こえてきた。三広の身体の全神経が、カッと目覚める。祐樹の息遣いなのか、ほなみの物なのか、どちらにしても聴きたくなかった。
最初のコメントを投稿しよう!