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三広は、綾波の手から逃れようともがき続ける。
――聞きたくない、見たくない……なのに、聴覚も視覚も総動員で、暗がりのふたりを探してしまう。
「見るのはタダだろ……折角の機会だ……こういう経験もいいだろう」
からかい半分の綾波の言葉に三広は反論しようとした。すると、口を塞いでいた綾波の長い指が唇をつつ、となぞってくる。三広は悲鳴をあげてしまった。暗がりのふたりは愛し合うことに夢中で気づかない。
「綾ちゃ……っ何を」
「ふふ……見ているだけで啼くとは……お前も好き者だな」
「ーー!」
目が慣れて、白い肌が浮かび上がってくる。それがほなみの肌だと解ると、身体の奥が痛いほどに疼いた。祐樹がほなみを抱き締めているのが確認できると、やり場のない切ない熱が溢れてくる。
(――俺は、こうなる事を願ってたんだ。それなのに何故こんなに苦しいんだ?)
自問自答をしながら、正直に反応する身体を持て余す。部屋にギシリ、と軋む音が響いた。彼等はベッドへと移動したらしい。三広の心臓が痛い程に早鐘を打つ。
「西くん……」
ほなみは、縋るような心細いような、甘い呟きとも溜息とも叫びともつかない声で、祐樹を呼んでいる。三広は、胸がビリビリ割かれるような錯覚をおぼえた。ギシ、ギシ、と、軋む音が生み出される度、その時に二人がしている動作を頭に浮かべてしまい、目の奥が潰れそうに締まる。
「……ほなみ……いい?」
祐樹の、上擦る声。ほなみが息を呑むのが気配でわかる。
「……あっ……あっ!」
この叫びは、先程まで聴こえていた声とは明らかに違う種類のものだ。
――ギシギシギシ。
激しく振動が伝わってくる。
「―――――!」
三広は、自分の口を塞いでいる綾波の手に思い切り噛み付いた。
綾波は、すこし顔をしかめて三広を離すとクスリと笑い、寝室のドアを閉めハンカチで手の平の血を拭う。
「綾ちゃんっ……なんで……なんで……こんな事……!何の為にっ!」
三広は、大きな瞳に大粒の涙を浮かべた。その唇は、綾波の手の血で更に紅く染まっている。綾波は、噛まれた手を自分の舌で軽くなめ回し、満足げな笑みを口元に浮かべた。
「……言っただろ。お前を虐めてやりたくなったんだよ」
その返答に言葉を失い三広が蒼白になった瞬間、ほなみは絶頂を迎え、切なく啼いた。
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