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彼のしなやかな腕に包まれながら、マンションで別れてから今日の長い間、彼に会わず、触れずになぜ居られたのだろうーーと、心底思った。
ひと目見た瞬間、夢中になってしまう恋というものは、映画や小説の中だけにしか存在しないと思っていた。なのに、今の自分はどうだろう。テレビに彼が映っているのを見かけて心を奪われて、身体全部がーー自分を形作っている細胞のひとつひとつが、彼を欲しがっている。
彼は、ほなみを壁に押し付けたまま、性急に烈しく様々な方向から唇を吸った。ほなみが応えるように彼の唇を軽く甘噛みするようにすると、彼は切なく溜息を漏らす。ゆっくりとほなみの唇を濡らしてから、咥内をその舌で掻き回し始めた。
彼の舌が、唇が、とてつもなく熱いのは気のせいだろうか?舌が絡め取られてしまうような危うさを感じ、ほなみは思わず西本の唇から逃げた。
「ちょ……ちょっと待って」
「待てないよ」
彼は、ほなみの頭を両手でつかむと、再びキスをしてきた。髪を狂おしく撫でるその指も、背中を這う手の平も、ほなみを狂わせるためにだけ存在しているように思えた。ほなみの全身の脈がドクドクと音を立てている。あまりの甘さと熱さに息苦しささえ覚え、呼吸を確保したくて必死に彼の胸を手で押した。
「……嫌なの?」
「んっ……違……ドキドキしすぎて……」
彼は、花が咲いたような笑みを溢し、壊れ物を扱う様にほなみの頬に触れた。
「……俺もだよ」
ふたりは、暗い部屋の片隅で暫く見つめ合っていたが、お互いの存在を確かめ合う様にどちらからともなく抱き締め合う。
「西君……怪我は?」
「もう痛くないよ……」
「……よかった」
ほなみは、彼の胸の中で安堵の溜め息を吐いた。
「あんな怪我より……ほなみに会えない事の方が痛い」
「西……くん」
西本は、ほなみを軽々と抱き上げ、ベッドの上に横たえて覆い被さる。
「あ……待って」
「もう……またそれ?待たないって言ったじゃん」
「床の薔薇……ちゃんと片付けてあげないと……」
ほなみは、首筋にキスされながら必死に訴えた。
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