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来る日も来る日も、ベッドの上で天井を見つめ、ほなみの事を考えてしまう。
ほなみには、クレッシェンドを応援していると言われたが、今の自分は、音楽家でもなんでもない。
ーー恋に苦しむ愚かな男だ。
情けなさでいたたまれなくなって寝返りをうつと、部屋の片隅に飾ってある薔薇が視界に入り、誘われるように手を伸ばし、指先で触れた。
花弁の柔らかさと感触が、あの夜触れたほなみの肌を思い出させた。
『――あっ……』
甘い声が耳に蘇り、頭の奥がジンジンと痺れ始める。疼きつつある欲がこれ以上大きくならぬよう、気を逃そうと深呼吸する。だが、腕の中で喘ぐほなみの姿が鮮やかによみがえり、治まるどころか身体は熱くなる一方だ。
(どんなに恋しく思ったとしても、欲しくてたまらなくても、彼女はここには居ない――)
西本は気が付くと、花瓶ごと薔薇を床に叩き付けていた。
――そしてその次の瞬間、ほなみが外の光と共に部屋に入って来たのだ。
現実なのかどうか信じ難くて、ほなみをつかまえて確かめるように抱き締めた。
『夢じゃないよ。西君に会いに来たの』
ほなみは言った。
(夢でも現実でも構わない。目の前のほなみを、逃がしたくない――)
夢中で抱いた後、ほなみは、腕の中で疲れて眠りこけてしまったが、西本の身体はまだ愛する事を欲していた。
見つめていると、再び熱く身体が高ぶり無理矢理にでも抱いてしまいそうだった。
しかし気持ち良さそうに眠るほなみを起こすのは可哀相だ。
そっとベッドから降りて、シャツだけを裸の上半身に羽織り、長い間開けていないピアノの蓋に手を触れた。
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