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西本は、冷たくて硬い心地よさにうっとりして目を細める。
蓋をゆっくりと開けると、八十八の白と黒の鍵盤が現れた。
ピアノが部屋に置いてあるという事実さえ辛く感じる日々だったが、今は心が躍っていた。幼い頃、外遊びから帰って手も洗わずにピアノに向かって叱られた事を思い出す。弾くのが楽しくて堪らなかったあの頃……
ほなみを起こさないように、ごくごく弱いピア二ッシモで和音を奏でてみる。しんとした部屋に、透明な音が響いた。
――音が心地好い――久々の感覚だった。
西本は、ほなみの声のキーに近い音を探してメロディーを弾いた。
甘い中に切なさを込めた旋律が、両手の指から生み出される。
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