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他の子供たちはみな、感情の起伏が激しく、些細な事で怒ったり泣いたり笑ったりしていた。それが当然なのかも知れないが、俺はどうやら普通の子供ではなかったらしい。
母親に甘え、わめいている彼らを、俺は密かに醒めた思いで見ていた。
しかし、わざわざ敵を作る事もないので、どんな時でも俺はニコニコ笑っている事にした。
何を言われても相槌を打ったり、笑顔でいば、敵視される事はなかった。
俺は決して本音を言わなかった。
大人の世界に出入りすることが多かった俺は、必ずしも本心を言う事が良い結果にならないーーという事例を数多く見てきて、本能的に自分を防衛する手段を身につけたのかも知れない。
そんな俺は、やはり周囲の子供から好かれては居なかったようだ。
小学校に入学したばかりの頃、ピアノ教室でこんな事があった。
俺より少し前から通い始めた、確か「ヒカル」という名前の男の子だった。
バイエル練習曲の進み具合が思わしくなく、教室での練習が終わった後、
「もうできない。もう辞めたいよう」と母親に泣きついて居た。
母親は
「何言ってるの!頑張れば上手になるわよ!」と諭していた。
「もう嫌だ!後から入ってきた智也にも負けてるし!もうピアノなんかやりたくない!」
ヒカルは泣きじゃくった。
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