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「俺、家にほとんど帰らないと思うけど、それでも良ければ結婚する?」
――四年前の今日。智也(ともや)は、ほなみにプロポーズした。
ふたりは幼なじみで、ずっと同じ学校でつかず離れずの関係だった。
特別に仲良しでもなく、逆に仲が悪くもなく、智也への印象は「会えばあいさつする程度の付き合いの優等生」。
ほなみの父親は智也の家が経営している会社の従業員だったが、智也の父と親しく、小さな頃に何回か家に遊びに行った事がある。
中学生の時に両親が自動車事故で亡くなり、親戚もほとんど居ないほなみは天涯孤独の身の上になり、手を差し延べてくれたのが智也の両親だった。
ほなみを引取って大学まで行かせて、智也の両親の会社の事務員の仕事まで世話してくれた。
智也とは、高校生の時に交際を申し込まれ付き合っていたが、中学生の頃から毎日ひとつ屋根の下で過ごしていたせいか、恋人どうしという実感がない。
同級生の友達が、彼からのメールが来ないとか、次会えるのがいつだとか、寂しいだとか、恋バナで盛り上がっていた中で、ほなみは一応彼氏がいるとはいえ、毎日家で顔を合わせるからメールをする必要もなく、会えなくてやきもきするような事もなかった。
もっと言ってしまえば、結婚前に「好きで仕方がなくて超盛り上がった」という記憶も思い出も皆無。
彼にいつから好かれていたのかも知らない。
プロポーズされた時、リビングで朝食の納豆を一心にかき混ぜている最中だった。
そんなロマンチックでもなんでもないような日常の中で「結婚しない?」と言われた訳だが、断る理由も特になかった。
彼のことは嫌いではないし、中学生で天涯孤独になり施設行きになる寸前だった自分を智也の両親が引き取ってくれて何不自由なく育ててくれたのだし、智也が望むなら結婚してもいいーーと。
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