~音符に乗って君をさらいに行く~

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 親友の吉岡あぐりは、結婚式の二次会で酔っぱらって説教した。 「ほなみ~あんたはね。結婚する前に本気の恋愛をするべきだったのよ。 そりゃあ岸智也はイケメンだし学年一の優等生で、家もお金持ちで条件としては最高だけどさあ。智也以外と付き合った事がないまま結婚してもいいの?  いいっ?結婚ていうのはねっ!  "新しい日々の始まり"なのよ!わかるっ?  ハッピーエンドになるかバッドエンドになるか全然わからないのよっ!?  ……それに結婚は契約だからね。夢物語じゃないのよっ!」  ほなみはハラハラしながら隣の智也を見たが、彼はただ静かに微笑してワインを飲んでいた。  智也は「俺、ほとんど家に帰らないと思うけど」と言ったが本当だった。  結婚式を挙げ新婚旅行から帰り、新居のマンションで引っ越しの段ボールも開けていない状況で海外赴任になった。マンションには年に二回帰ればいい方だ。  ほなみは結婚してから仕事は辞めたが、生活費は智也が送ってくるし、両親が従業員扱いでお給料を振り込んでくれるので生活には困らない。  あぐりのお誘いがなければ、マンションの周辺の街を散歩したり、お天気が良くない雨の日には部屋の掃除に明け暮れ、あきたらネット検索で出てきたおいしそうな菓子を大量に作った。    ほなみが居た会社は、職場結婚をした場合、女は復帰できない決まりだ。    友達もいたし、守衛の「中野さん」というおじさんとはよくおしゃべりしていたので正直かなり寂しいし、職場に戻れないのは不満だった。    けれど、自分は逆らえるような立場ではない。智也はめったに帰ってこないし、恋人時代にも甘い言葉をかけてくれた事はなかったが、大切にしてくれているのがわかる。
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