変わったのは……

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 その夜は、普段飲まないワインを開けて酔っ払て、ベッドにも入らず眠ってしまい、クレッシェンドのライヴの長い夢を見た。  ホールには、ほなみだけ。  ステージの上の西本祐樹は、彼女を見つめ、ピアノを奏で歌っていた。  何曲か演奏をすると、彼はステージをひらりと飛び降り、手を差し出す。 「おいで……僕と踊ろう」  ほなみは、ときめきを隠せないまま、頬を熱くして右手を差し出す。  彼はほほ笑み、ほなみの手を優しく取り、ホールの真ん中まで連れていく。  天井のミラーボールがまわり、無数の光の粒子がふたりをキラキラと照らしている。  メンバーが演奏する中、西本にリードされ、ほなみはステップを踏む。  慣れないほなみはよろめき、彼の腕に支えられた。 「……ごめんなさい」 「……しっかり僕につかまって」  西本が、ぐいっと腰を引き寄せ、ふたりの身体が密着する。  すぐ目の前に彼の唇があり、ほなみは知らず知らずのうちに緊張していたようだ。  ほなみの足がもつれてしまい、タイミングが合わなくなり今度は西本がよろめく。  慌てて彼を支えると、息がかかる程の距離まで近付いた。  ふたりは暫し見つめ合った。  われに返り、ほなみは離れようとするが、再び引き寄せられる。顎をつかまれ上を向かせられ、西本のサラサラした前髪が頬にかかった。  思わず目を閉じた時。 「ほなみ。お前は誰の妻なんだ?」  智也の声が聞こえ、ほなみは弾かれるように西本から離れる。  いつの間にか、西本の姿は智也その人に変わっていた。  ゆっくり近づいてくる智也を、ほなみは心臓がバクバク音を立てているのを感じながら見つめる。 「……もう一度聞く。お前は誰の妻だ」  ほなみは後ずさる。  智也は、相変わらず表情を変えない。 「お前は、俺の女(妻)だ!!」  智也が鋭い声を放ったその時、ほなみは夢から醒めた。  俯せになったまま眠っていたため、床に散乱した自分の脱ぎ捨てた服や、転がったワインのボトルが視界に入り、うんざりしてため息を吐いた。
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