山田真琴

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聡は、木下に悟られないよう、小さく溜息をついた。 金本のアリバイが成立してしまったのである。 殺害されたとされてるその日に、間違いなく金本は山田と会って揉めていて、そして、殺害現場の近くに金本の自転車まであり、それらを目撃した証人もいる。 にも関わらず、金本の山田真琴殺害の容疑が晴れてしまったのだ。 山田真琴の死亡推定時刻は、解剖結果で、あの大雨が降り出した4月10日火曜日、午後7時10分頃だと言う事がはっきりしていた。 山田には生活反応があった。そして、その時間の金本にはアリバイがあり、先程それも証明されてしまった。 生活反応…。つまり肺に泥水が入っていて、考えただけでも悍ましい事だが、山田は生きた状態であの場所に埋められていた事が分かったのだ。 その翌日から、山田の周囲では、山田と連絡を取れた人間もいない。 下足痕らしき物を見つけるが、あの大雨のせいなのか、靴底の後も分からなくなってるし、その下足痕の形からしても、そもそもそれが一般的な靴だったのかも疑わしい。 聡は顔を上げると目を細めて虚空を見つめた。 きっと犯人は、万が一にでも靴跡が残らないように、靴の上から何らかの策を取っていたに違いない。直ぐにでも足の付きそうな、特殊な履き物を使う事は考えられないからだ。 なぜなら、ホシはきっと、頭の切れる人物に違いないのだ。 被害者の山田とトラブルのある金本を選び、その金本に目を向けさせるために、金本の自転車まで使った。 計画的で、この周到さ。 山田を恨んでいる人間。単独犯で…男。 そこまで思い至った聡は、更に目を細めた。 「しかし、なんで犯人はあんなやり方をしたんでしょうね。本当、理解に苦しみますよ。」 木下が聡の隣に腰を下ろすと、呟くように言った。
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