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聡は徐ろに深く息をつくと、その目に、その目の前に広がるありのままの空間を、真っ直ぐに捉えて見据えていた。
その聡の横顔を見つめる木下は、聡の思慮深さに驚いて、改めて、尊敬の念を深く抱いた。
「そう、ですね…。こんな事件ばかりじゃ、本当、安心して住めないですもんね。世の中が一緒になって改善していくしかないって事ですね。」
木下は炭酸飲料の缶を見つめて再び、溜息を漏らす。
「あぁ。そう言う事だ、俺はそう思ってる。で、だ。ホシは何かしらの訳あって、あんな殺し方をしてるんだ。きっと手がかりもあるに違いない。それに、金本の供述で気になる話もあった。」
「あぁ!そうですね!」
「もう一度、金本に話を聞いて、また出かけるぞ。」
「はい。」
二人は飲み干した空き缶をゴミ箱に入れると、慌ただしく騒めく廊下を歩き出した。
「てか、課長は甲斐性無しなんかじゃないと思いますよ。課長が甲斐性無しだったら俺はどうなるんですか!それに真面目過ぎます!だいたい、江崎課長が部長になってもおかしくなかったのに、そんなんだから、あの安東さんに持って行かれるんですよ!もっと悪賢くていいんですよ!課長は………」
木下がぼやき声を上げる。
それじゃ、まるで真面目な事が恰も良くないみたいな言い方になってるぞ…と、聡は言おうとしたが、木下の可愛い説教は今に始まった事でもなければ、聡のそれも、つい先週、木下に言ったばかりだったので今日の所は止めとくことにした。
「はいはい。分かってますよ。ご高説ありがとな。」
そんな二人の後ろ姿が、署内の人混みに埋もれて行った。
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