山田真琴

10/10
前へ
/189ページ
次へ
聡は徐ろに深く息をつくと、その目に、その目の前に広がるありのままの空間を、真っ直ぐに捉えて見据えていた。 その聡の横顔を見つめる木下は、聡の思慮深さに驚いて、改めて、尊敬の念を深く抱いた。 「そう、ですね…。こんな事件ばかりじゃ、本当、安心して住めないですもんね。世の中が一緒になって改善していくしかないって事ですね。」 木下は炭酸飲料の缶を見つめて再び、溜息を漏らす。 「あぁ。そう言う事だ、俺はそう思ってる。で、だ。ホシは何かしらの訳あって、あんな殺し方をしてるんだ。きっと手がかりもあるに違いない。それに、金本の供述で気になる話もあった。」 「あぁ!そうですね!」 「もう一度、金本に話を聞いて、また出かけるぞ。」 「はい。」 二人は飲み干した空き缶をゴミ箱に入れると、慌ただしく騒めく廊下を歩き出した。 「てか、課長は甲斐性無しなんかじゃないと思いますよ。課長が甲斐性無しだったら俺はどうなるんですか!それに真面目過ぎます!だいたい、江崎課長が部長になってもおかしくなかったのに、そんなんだから、あの安東さんに持って行かれるんですよ!もっと悪賢くていいんですよ!課長は………」 木下がぼやき声を上げる。 それじゃ、まるで真面目な事が恰も良くないみたいな言い方になってるぞ…と、聡は言おうとしたが、木下の可愛い説教は今に始まった事でもなければ、聡のそれも、つい先週、木下に言ったばかりだったので今日の所は止めとくことにした。 「はいはい。分かってますよ。ご高説ありがとな。」 そんな二人の後ろ姿が、署内の人混みに埋もれて行った。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加