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「ま、嘘字は多いですけどね。頑張って売れたら、人、増やして欲しいですね!」
そう言って野口は、洒々落々な様子で笑った。
プロレスの事になると煩いのに、それ以外の事に関しては、温和な野口に呆れたような、羨ましいような複雑な気持ちで、沙羽は眼差しを向けた。
丁度、お昼を終えて、眠気と戦いながらの作業を続けていた沙羽達は、黙々とその地味な作業を続けていく。
そして何時間か過ぎた頃、漸く周りの社員が動き出した。
どうやら、一応の就業時間は終わった様で、時計は既に6時を回っていた。
「あ~、疲れた~!でも、終わってな~~い!」
沙羽がデスクに突っ伏して、べそをかいた。
沙羽は、その突っ伏した姿勢のまま「まだ、やって帰るでしょ?下(コンビニ)行かない?」と、野口に顔を向ける。
「行きましょ~。息を抜かないと、死ぬ~。」
野口のその表情も、げっそりとしていて疲れている様子だった。
バッグから財布を取り出すと、まだデスクに座って作業をする、同じ3係の坂井と、田中と、佐藤に「良かったら、何か頼まれましょうか?」と野口が尋ねると、坂井は「あ」と顔を上げた。
「俺は大丈夫っす。もう上がるんで。」
坂井がそう言って笑うと、沙羽も田中も佐藤も「えっ!」と声を上げ、一体、坂井はこんな忙しい時に何を言ってるんだと、眉を寄せた。
「あ、仕事はちゃんとうちでやってきますんで!今日は彼女の誕生日で、帰らないと後々煩いっすので~、ほんと、すみませんけど、帰らせてもらいま~っすっ。」
坂井は自分のUSBを手に取ると、顔の高さまで持ち上げて『仕事持ち帰ります』アピールを、皆に向かってして見せた。
「大変だな。お疲れ。」
恋人の必要性を感じてない佐藤が言うと、続いて田中が「乙!サービス業頑張れ~」と、軽く手を上げた。
沙羽は恨めしそうな顔をして坂井を見つめた。
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