20人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな黒谷の言葉を聞いた沙羽は、益々激昂した。
「ぬぁーにぃーをぉー!!」
沙羽が、男性社員に掴まれた腕を振りほどく勢いで前のめりになると、まるで、どこかの餅を搗く芸人のように叫んだ。
すると、透かさず課長の杉本が「やっちまったなー!」と、凄まじい形相で沙羽の方を振り返り叫んでしまって、その場の空気は凍てつき、静まり返って、皆が一斉に顔を歪めて杉本を凝視した。
杉本は再び狼狽えて、「あ、あ、ごめん。つい。ついね。」と、胸元で両手を左右に細かく震えさせながら、周りの社員に肩身を狭くして謝った。
「やっちまったのは、私じゃないですから~!!」
今度は泣きそうな顔をした沙羽が、杉本に泣き付こうとして、掴まれた腕を振りほどいて崩折れた。
一体、これは何なんだ。
きっとこの場の誰もが思っていたに違いない。
しかし、この場の誰よりも、そう思っていたのは誰でもない、黒谷だった。
黒谷が怪訝そうに眉を顰めて、どうしてこうなってしまっているのかを考えながら立ち上がると、スーツの誇りを払った。
だけども、いくら考察に考察を重ねても、そこに帰結する原因が思い当たらない。
「な、なんですか、これ。何かのサプライズでしょうか…」
顔を強張らせて、微苦笑を浮かべた黒谷が、誰にともなく聞いてみた。
「え?」
沙羽が、唖然とした表情で黒谷を見上げて、
何言ってるの?
そう思った。
「えええええ~~!?知り合いじゃないの?なんか訳ありで、ぽかったけど?違うの?どっち~?えええええ~~!!」
杉本が更に狼狽したような声を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!