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「…あー、オッケー、わかったわかった。それね。ボマ…」
「ボマイェ!上村シンスケの!」
再び野口が口を挟んでくると、渡辺は辟易した様子で、顎を落とし目を閉じた。
「………。」
知らねーよ。何だっていいよ。そんなのは。
渡辺はそう言おうとしてやめた。
いつも、決まってこの手の話題になると、細かいところで噛み付いてくる野口だ。そんな事を言おうものなら、スッポンの様に噛み付いて離れてはくれなくなる。
そんな野口を一先ず置いといて、渡辺は黒谷に視線を向けた。
「それもそうなんですが、何しろ突然だったので、何がなんだか分からないけど、凄い剣幕でしたし、何か訳があるんだろうと思ったら、とりあえず落ち着いて貰わないことには、話も見えてこないと、そう思ったので…。」
黒谷がそう言うと、周りから感嘆した声が上がる。
「あんた、ほんと人間出来てるな。出木杉君じゃん?」
渡辺がそう言うと、少し離れた所から誰かが吹き出した声がして、
「なべさん、あまり喋ると器と知性の差が浮き彫りになってるっすよ。」
と言う、揶揄うような声が飛んで来た。
「誰だ!今の!坂井だな!」
「違いますよ!俺じゃないっす!ちょっと、田中さん、やめてくださいよ!俺の真似するの!酷くないっすか、それ」
「は、俺じゃないよ!佐藤だろ?」
「いや違うし!お前、人に擦りつけんな!」
「わかったわかった!もういいよ!」
この様に、沙羽を他所にそんな会話が繰り広げられていたが、既に就業開始時間はとっくに過ぎていて、それを気にしていた杉本が、話しを締め括ろうと恐る恐る切り出した。
「えっと~、と言うことは、あれかい?江崎君は寝ぼけてたって事でいいのかな、これは、ねぇ?どうなのかな?」
「その様でーす」
部署内の全員が一斉に杉本の問いに返すと、先程から狼狽しきっていた杉本は「そうか、そうか、江崎君は寝ぼけてたのか」と、笑み崩した。
「えぇぇぇぇ~~!」
沙羽は不服そうに泣き声を上げたが、それは虚しく社内の喧騒に掻き消されてしまった。
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