再会

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沙羽の部署はというと、その売り上げに直接影響を出す様な編集や企画とは違って、地味な仕事ではあるのだが、この沙羽の働く出版社が、元々は辞書の発刊から始まった会社なだけあって、誤字脱字等の間違いにはどこよりも煩い会社であった。 今ではデジタル化された辞書のアプリを出していて、これが意外と売れ行きがよく、自社の大事な生命線の一つとなっている。 とは言え、いくら女性週刊誌と女性ファッション誌、そして辞書のアプリが売れてると言っても、経営が行き詰まっていた事は明白な事実。 なので、様々なものを出版させてはいるのだが、小規模な会社な上、社員も少なく、一人で二つの雑誌を任されている者が殆どだ。 じっくりとチェックされる事が出来ない、ほぼ全ての原稿が、最終的に沙羽のいるこの部署に回ってきてチェックされるのだ。 かと言って、この校閲・校正課の人間が多いのかと言えば、そうではなかった。 本や雑誌を、読むのが好きな沙羽でさえも、気分によっては読みたくもなければ、活字から離れたい時だってあるのだ。 例えば、そう、正に今現在のこんな時なんかは、目で追っていても全くと言っていい程頭に入ってこない。 頭にあるのは、後ろに座る、初対面だとしらを切って覆さない黒谷、その男の事だけだ。 だけど今は仕事中である。 沙羽は、黒谷に詰め寄りたい気持ちを必死に抑えて頭を抱え込んだ。 だめだ。捗らない…。 沙羽は勢いよく席を立った。 すると、両隣の野口と坂井もそうだが、同じ係の田中も佐藤も、1係も2係もピクリと動きを止めて息を飲んだ。 「違う!飲み物!もう飛びかからないから!」 そう言うと、沙羽は入り口に向かって行った。
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