至宝

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「他にいくつ部屋あんの?」 「あと、2つ、ですかね」 「な、ここマジでシゲの部屋? シゲ、金持ちだったの?」 「正確には僕の父が、です。このマンションも父の持ち物で……」 「部屋じゃなくて、マンションごと?」 「はい、不動産はいくつか持っているようですが。僕も全部は把握していません」  ぶったまげた。だって想像できるか? いつもダサいスーツに持ちものだって安物だ。絶対、誰が見ても、どこから見ても金持ちには見えない。 「ちょ、ちょっと待って、シゲ、仕事は……」 「しがない公務員ですよ。夏輝、なにを飲みます? 洋酒、日本酒、ワインもありますよ」 「きついヤツ! きついヤツ頂戴」  飲まずにいられるかってえの。  にっこり笑ってキッチンに向かうシゲをトコトコと追いかけた。 「分譲ですが、不景気で売れ残ってしまって。部屋は住まないと傷みますからこうして僕が……。ちみちみローンは払っているんですよ。頭金はずいぶんまけて貰いましたが」 「へえ、買って貰ったとか譲って貰ったとかじゃないんだ」
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