至宝

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「こんば……、あれ? 勝戸さん、あ、すみません、お待たせしまして……ん? ていうか、ママは? おー、至宝、いいなあ、勝戸さんに撫でて貰っていたのかい?」  鱒崎はキョロキョロと店内を見回しながら矢継ぎ早に言う。 「いっぺんにあれこれ聞くなって。俺か至宝かママか、どれかひとつにしてくれないか」 「あっ、これは……、すみません」 「いいけど。それに遅れてないし。まだ10分も早い」  鱒崎は腕時計を見てあっ、ホントだ、と呟いた。 「ママはいない。どこに行ったか、本当はいるのか、それもわからない」 「でも……勝戸さん、じゃあその前から……ひとりで?」 「俺は早く来すぎたんだ。いいんだよ、ずっとこいつが相手してくれてたからさ。な、至宝」  ニャオン。  至宝は立ち上がると尻尾をぴんと立てた。どんなもんだい、と言っているように見えるから不思議だ。 「随分仲良くなれたんですね、なんか妬けるなあ……」 「猫だぞ、猫。よくもまあそんな恥ずかしい台詞が言えるな」 「あ、その、いや……こ、困ったな」  鱒崎が体を縮める。  ぷぷぷ、と笑いが零れた。
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