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あっという間に時間が過ぎて行った。
そろそろ帰ろうと腰を浮かせると、至宝が名残り惜しそうにニャオンと鳴いた。信じられないことに外まで見送りに出てきた。
「猫、飼いたいなあ、あんなに可愛いもんだって今まで知らなかったよ」
至宝が諦めて店に戻っていくまで、何度も振り返りながら商店街を歩いた。
「至宝は特別かも知れませんが、それにしてもよく懐かれていましたね」
「俺んち、アパートだし、動物禁止だし、仕事でほとんど家にいないからなあ……」
「また会いに来ればいいじゃないですか、『青龍洞』に」
「ん……そうだな、そうだよな。それよか、ごめんな、たいした話も出来なくて……」
鱒崎が立ち止まる。
勝手に足を動かしてダラダラ歩いていたら、いつの間にか商店街を外れ暗い裏道に出てしまっていた。
「僕は楽しかったです。勝戸さんと一緒で、たくさん話せて」
「鱒崎さん……」
「『シゲ』でいいですよ。ママも、知り合いもそう呼びます」
「俺は『なっちゃん』はイヤだぞ」
「ははは、勝戸さんは勝戸さんでいいじゃないですか」
「夏輝」
「は?」
「ナ・ツ・キ。呼び捨てでいいよ。なんかおれだけ『さん』付けはイヤだ」
「はい。夏輝。これからはそう呼びます」
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