至宝

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 鱒……いや、シゲが俺を見下ろしている。黒縁メガネの奥の瞳は優しい光を湛えている。  ああ、なんか俺、やられちゃったかも……? 「なあ、飲み足りないな」 「そうですね。もう一軒行きますか? ああ、それとも僕の部屋に来ますか? 酒ならありますし、つまみも準備できますよ」 「え? いいの? そっか、そうしようかなぁ……」 「遠慮しなくていいですよ」 「オッケー、じゃ決まりっ!」  シゲの部屋には訪問済みだ。ほとんど記憶にないけれど。今回はじっくり見てみよう。どんな暮らしをしているのか気になる。といっても同じレベルくらいの生活をしているのだろうと、なんの根拠もなく思いこんでいた俺はハイレベルで裏切られた。 「なに、この部屋……」  あの日の朝、自分の失態に狼狽していた俺は、とにかく道路に飛び出してタクシーを拾った。部屋の間取りも広さも全く覚えていない。  まさかこんな部屋だとは……。  玄関が俺の部屋のキッチンくらいの広さがある。入ってすぐに部屋がない。まず廊下だ。ぺたぺたと音を立てて進むと奥はリビング。 「何畳あるんだよ?」 「さあ、20畳くらいでしょうか」  げ、ここだけで俺のアパートのふた部屋分より広い。
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