至宝

38/42
前へ
/42ページ
次へ
「この間のビンタのお返しだよ。なんかシゲ、いつも俺より余裕あって、人間出来てて、なんかムカツク」 「そ、そ、そんな……」  狼狽えるシゲがちょっと面白い。 「俺さ、しばらく、気持ちから、っての経験してないんだ。出会ったらすぐ、その、やっちゃってたから……。だからさ、その……」 「不安なんですか?」 「ほらまたそうやって懐の深いとこ見せる。ムカツクなあ。でも、当たり。そうかも知れないんだ。なんていうか、だからさ、試してみないか? 今から」 「今から?」 「うん」  シゲは直立不動でかちんこちんに固まって俺を見下ろしている。  迷いがはっきり見えて、俺は後悔した。こんな風に誘うべきじゃなかった。 「あ、ごめん、シゲ。やっぱ今のなし。俺さ、随分酔ってるから。忘れて、ホント、マジで」 「夏輝……」  シゲの腕が俺の肩を抱いた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加