至宝

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 これまで俺は上手い具合に利用してきた。つい最近まで上手くやっていると思っていた。割り切った身体だけのお付き合い。お互い気持ち良くなって発散出来ればいい。そう思っていた。  あいつの態度が変わるまでは。  わかるだろ? そう、相手の男が俺以外の男性に本気になってしまった。  それだけならいい。きれいさっぱりはい、さようなら。    そう出来た。出来た筈だった。    だけど俺は気付いてしまった。俺もそいつに本気になってしまっていたってこと。  俺のことなんて眼中にないヤツに、あろうことか本気で惚れてしまっていたんだ。  不覚だったよ。あいつが変わるまで、俺自身全く気付いていなかった。気付いた時にはもうあいつの心は俺から離れてしまっていた。いや、最初から俺の方なんて向いていなかったのかも知れない。縋りついても叶う想いではないことも知った。あいつにとって俺はただのセフレだったのだから。  ただの美容師、勝戸夏輝はクリスマスを目前に見事に失恋してしまったという訳だ。  傷心を抱え日々美容師の仕事に励む俺には抱えている問題がもうひとつある。  ちょっと困った男性客だ。
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