至宝

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 どことなく不気味で鱒崎が来店すると気が重い。夢を叶えるために指名してくれる客は喉から手が出るほど欲しいが、俺としては相当なジレンマだ。  そして今日も鱒崎はやってきた。  世間はクリスマスイブ。なんでまたこんな日に。床屋に行けばいいのに。顔も剃って貰えるぞ。と思ったが予定のない俺としては仕事があるだけマシ、というものだ。 「カットでよろしいですか?」 「あ、はい……」  どこ切れっちゅうんじゃ! 「ではシャンプー台の方へ」  前髪と耳に少しかかる髪と襟足を丁寧に整える。  どんなに嫌な客でも手を抜かないのが俺の信条だが、実のところそれだけが理由ではない。髪質がいいのだ。サラサラしているのにコシもあるし艶もある。頭皮もべたべたしていない。  清潔にしている証拠だ。俺が一生懸命整えた髪を手荒に扱われるのは気分のいいものじゃない。  その点鱒崎は合格だ。 「あの……」 「っ、はいっ?」  ふいに話しかけられて手元が狂ってしまった。  やべ、切り過ぎた? 大丈夫このくらいなら修正できる。 「失礼しました、なんでしょう、鱒崎様」  なんだろう、なにかしたか? 俺。手元が狂ったのは声をかけられた後だ。
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