transfer student

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「春川深月です。よろしく、お願いします」 見慣れない顔の男子に向けられた歓迎の拍手が教室に響く。 転校生が来る、とは聞いていた。 でもそれが女が男かなんて知らなかったし、全く気にならなくて。ましてや自分の隣の席にやってくることは、知らなかった。 「よろしく」 「こちらこそ、よろしくね」 今朝用意された私の隣の席に腰を下ろし、彼はカバンの中身を机の中へと収めていく。 隣の席に人がいるのって久しぶりだな、と思いつつ。至近距離でこれ以上見てたらさすがに失礼だろう、なんて左横の窓に視線を移し、銀杏を眺める。 窓側の一番後ろの席に転校生が座るなんて、なんかいかにもって感じだ。 転校生は、端正な顔立ちをした男子だった。 かっこいい、イケメン、というよりも美少年という言葉が合う、そんな男子。 周りのみんなも、彼に釘付けだ。男子だって、あり得ないとでも言いたげな顔をしてる。 誰だって、二度見するよ、こんな男子。現に転校生もその視線に慣れているようで、気にする素振りを見せない。 その横顔に、先ほど黒板に書かれた少し斜めな文字を思い出す。 「春川くん、これからよろしくね」 「よろしくね、えーっと、」 「ごめん、私、小坂杏菜、っていうの」 この都内にまだ来てから一週間も経っていないという彼は、凛とした表情で物怖じもせずに周りからの好奇からくる視線を気にしないでいる。 その姿があまりにも美しくて、思わず見惚れてしまいそうになった。 「よろしくね、小坂さん」 人懐っこい笑顔がみんなを惹きつけたようで、クラスメイトはもちろん、他のクラスの面々と彼が仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。
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