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「先ずは一戦して黄泉帰りとやらの実力を見る。身体を真っ二つにされて『死なない』までも『動ける』のかな。身動きを封じることが出来れば、そのまま封印という手段もある」
「なんだか卑怯っぽい作戦ですが、凄そうですね」
「試してみる価値は充分ありそうだ。上手くいけば今夜で決着が付いてしまうかもしれない」
宗一郎は二人の頼もしさを初めて実感していた。『左団扇』に仕事を依頼して正解だったのかもしれない。
現子を始末してしまえば、直ぐにでも平和な日常が戻ってくるのだ。
「お会計、宜しいでしょうか?」
先程のポニーテールのウェイトレスが笑顔で立っていた。
「皆さん、食欲旺盛なんですね」
宗一郎は呆れるのを通り越して感心していた。健啖家でなければ勤まらない仕事なのかもしれない。
テーブルの上には亜緒と蘭丸が平らげた皿の山やグラスやカップの数々が、まるで嵐が去った直後のような無秩序状態で散らばっていた。
「僕はコーヒー一杯しか注文していないんですけど。お二人は何処に?」
「亜緒さんと蘭丸さんなら、もう店を出ましたよ」
店の窓から、外で談笑している二人が見えた。
何が可笑しいのか、亜緒が愉快そうに笑っている。
「あの、おいくらですか?」
「十万と千八百三十三円になります」
「十万っ! この店ってそんなに高いんですか?」
「お二人の溜まっていたツケも合わせて、お客様が依頼料の前金として支払う話はついていると……違うんですか?」
やはり依頼する相手を間違えたかもしれないと思いながら、結局宗一郎は今回の食事代と二人のツケを支払うことになるのだった。
中央公園は約四十万五千平方メートルの敷地に緑や池、広場や遊歩道の他にテニスコートや野外ステージなどの施設がある市民の憩いの場である。
休日は元より平日も人で賑わっている場所であるが、午前零時ともなれば当然閑散としている。
所々に設置された人工灯が橙にぼうっと輝いているが、よほどの物好きでもない限りは闇が深まる時間帯に外出したりはしない。
亜緒と蘭丸は、その数少ない物好きの内の二人であった。
「念のために公園には人払いの結界を張ってある。宗一郎少年、思う存分公園内をウロついて黄泉帰りを誘き寄せてくれたまえ」
「え? 雨下石さんが餌を用意するのではないのですか!」
宗一郎が納得いかないといった表情で亜緒に不平を言う。
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