第一章『黄泉帰り』

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 こういうのも縁といってしまってよいものか分からないが、宗一郎は結局のところ現子を殺して黄泉帰った彼女に命を狙われている。  危機だというのに生前の現子を想い、懐かしさに浸る自分を宗一郎は奇妙な感覚を持って認識していた。  規則正しく並ぶ人工灯に照らされた遊歩道を一定の間隔で歩いているうちに、軽い催眠状態にでも落ちてしまったのかもしれない。  何しろ深夜に一人公園を歩くなんて経験は、この世界の住人の殆どが体験したことがないはずなのだから。  遊歩道を抜けて広場に出た頃だった。 「宗くん……」  聞き覚えの有る、清楚で内向きな声。 「う、現子!」  思い出から突然現実に引き戻されて、宗一郎は驚きながらも間の抜けた声を出した。 「今日、学校来なかったね。どうしたの?」 「ちょっと体調が悪くて」  近づいてくる現子から離れるように宗一郎は後ずさる。 「ふーん。そんなことよりさ。昨日私のこと永遠に愛してくれるって言ったよね。だったら、死んで一緒に黄泉で永遠の愛を誓ってよ」  虚ろな瞳で柔らかく笑う。その笑顔には生前とは異なる異質な愛嬌が漂っている。 「人殺しはよくないよ」 「私のことは殺したくせに」  現子の口元からクスクスと笑い声が漏れる。 「大丈夫だよ。あんまり苦しまないように一瞬で心臓を潰してあげるから」 「それ、充分苦しそうなんだけど」  もはや問答無用で現子がモーションに入った瞬間、宗一郎はどこか遠くで雷鳴を聞いた気がした。  その刹那に広がるのは信じられない光景。  現子の両手足と首が胴から斬り離されて、悲しげにモゾモゾと地を這って蠢いている。  ボロボロになった制服が胴体部に張り付いていた。  宗一郎の傍らには蘭丸が既に刀を納めた状態で立っている。  凛とした姿は一滴の返り血すら浴びていない。 「相変わらず出鱈目な早業。何度見ても太刀筋どころか、刀をいつ鞘から抜いたのかも分からん。まるで蘭丸以外の時が止まったかのようだ」  どこにいたのか亜緒も出てくる。 「宗くん……酷いなぁ」  現子の首が冷たい石畳の上で不満を漏らす。  宗一郎は現子から少し離れた場所で、盛大に胃の中のモノを吐いていた。 「宗くん……酷いなぁ」  現子は宗一郎の姿を見て傷ついたのか、二度目の不満を漏らした。その声はどこか嬉しそうに歪んでいる。 「で、これからどうする?」
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