第四章『蛟を祀る一族』

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「父様、紫様は兄様と顔見知りなのですか?」  ノコギリが茶道具を片付けながら静かに質問をした。 「ああ。幼馴染みと云うヤツかな。君も小さい頃に一度だけ会っているはずだけど」  ノコギリには紅桃林 紫の記憶は無い。  あれだけの個性の持ち主ならば、覚えていても良さそうなものだと首を傾げる。 「もっとも、君が会った頃はヤツの髪は黒かったがな……」  群青は深く沈んだ群青色の髪を細長い指でかき上げた。イラついているときの癖だ。 「しかし、息子に殺されたとあっては鬼灯(ほおずき)のヤツも浮かばれんなぁ」  月彦が苦笑する。鬼灯というのは紫の父、すなわち紅桃林家の前当主である。  まだ若かりし頃、群青と月彦、そして鬼灯は闇子封印のために力を合わせた仲だ。 「群青くんと鬼灯くんは、水と油で言い争ってばかりでしたけどね」  その度に月彦が仲裁役に回らねばならなかった。 「二人の喧嘩を止めるのは、いつも命がけでしたよ」  死にながら生きている妖刀使いは昔を懐かしむように笑った。 「それにしても、沃夜……と云ったか? あのクソ餓鬼は普段からあんなバケモノを連れて歩いているのかよ」  群青はつい、若い頃の言葉遣いに戻ってしまった。妖退治をしていた頃の血が騒ぐ。  それは月彦のせいであるかもしれない。  二人は今の亜緒と蘭丸のように、コンビを組んで界隈の魑魅魍魎を狩りまくっていたのだ。
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