第四章『蛟を祀る一族』

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 紫と沃夜は雨下石家の敷地を外に向かって歩いていた。  結界でどんなに空間が歪もうと、見鬼(けんき)の瞳を持つ彼が迷うことは無い。 「鵺の霊格が下がったとはいえ、やはり雨下石 群青を殺せる気にはならへんかったな」  むしろ、自分が殺されるのではないかと思ったほどだ。 「娘のほうはどうです?」沃夜の声は感情には乏しいが、落ち着いていて良く通る。 「あっちゃは話にならん。すぐにも息の根を止めることが出来はるなぁ」  簡単すぎて面白みが無い。と、紫は付け加えた。 「とはいえ、『月下美人』の霞 月彦は殺るだけ無意味やし」  紫が退屈そうに伸びをすると着物の袖が肩まで降りて、細くしなやかな両腕の白が薄明かりの下に晒される。  紫の体に比べて着物が大きいのだ。 「さて、亜緒くんのほうはどないかな」  鵺の霊格が落ちれば、それを祀る一族の霊力すべてが落ちる。  これは「祀る者」と「祀られるモノ」との、逃れることの出来ない必然とも云える関係だ。
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