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「まぁ、事実だしねぇ」
「オマエも少しくらい恥だと思ってくれ!」
世間体じゃ腹は膨れないと亜緒は一笑する。
「亜緒、コレ食べてもいいか?」
鵺のお腹が小さく鳴った。
「丁度良いから昼飯にしよう」
袋を開けるとパンの香ばしい匂いが亜緒と鵺を誘う。
今まで食事とは無縁の存在であった鵺がお腹を空かせるようになったのは、明らかに人の体を持ってしまったが故の性(さが)だ。
「美味しい。これは……美味しいぞ!」
「そうだろう? パンの耳というのさ」
「パンという生き物の耳なのか?」
「そうそう。この世で一番美味しい食べ物なんだ」
味気無さそうにパンの耳を口にしながら、亜緒は鵺にいい加減なことを教える。
蘭丸はそんな亜緒に呆れた視線を送りながら、よくもあれだけ自然に嘘が口を衝いて出るものだと感心していた。
「蘭丸は食べないのか?」
鵺がパンの耳を勧める。
「俺は依頼主の家で馳走になってきた」
「さては寿司でも食ってきたな。一人だけズルイぞ蘭丸!」
パンの耳を銜えながら亜緒が詰め寄っていく。
「安心しろ。天麩羅蕎麦だ」
「うん。まぁ、それなら何とか許せるな」
依頼主が蕎麦屋の店主だったのだ。
「ところで謝礼はいくら貰った?」
「三十万入っている」
蘭丸が懐から札束の入った包みをテーブルへ載せる。
「ようし。今夜はこの金で夜桜見物でもしよう」
「ダメだ!」蘭丸が一喝して現金に伸びた亜緒の手を撥ねた。
「なんだよ。今行かなきゃ桜の季節が終わっちゃうぜ」
「花より貯金だ。家の経済事情を考えろ。祭りなど金持ちの遊びだ」
「こういった祭事は大切だよ?」
「花より団子の口が何を言う」
「お祭りっていい匂いがするアレか?」
「鵺だって行きたいだろ?」
大きく頷きながら頭の猫耳がピンピンと踊る。
今まで知らなかった。知る必要がなかった食べるという行為に対して、鵺は興味と喜びを見出してしまったらしい。
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