第二章『濡れ女』

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「とにかく、この金は当面の生活費を残して貯金だ。次の依頼がいつ来るのかも分からないんだからな」 「つれないねぇ。世知辛いねぇ」 「何処へ行く?」  あっさりと引き下がった亜緒を蘭丸が呼び止める。 「ちょいと出かけてくる」  野暮用だと言い残して、亜緒は薄暗い昼の下へと出て行った。 「なんだアイツ……」  遊び事となると引かない亜緒が食い下がってこなかったことで、蘭丸は興を削がれてしまった。  いつもなら駄々をこねる亜緒を諦めさせるのに一苦労するのだ。 「蘭丸。世界一美味しい食べ物がここにあるのに、亜緒はどうして別の食べ物に拘る?」  鵺の真っ直ぐな視線を受けて、美しい剣客は困ったようにため息をついた。
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